EMGピックアップの種類と特徴

[記事公開日]2023/10/3 [最終更新日]2024/4/18
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

EMG社は現社長でもあるロバート・ターナー氏が立ち上げた、ピックアップのブランドです。ピックアップ内にプリアンプを搭載するという画期的な製品作りによって、唯一無二の音色を実現し、一躍、リプレイスメントピックアップの定番の一つに躍り出ました。

ロバート氏は若かりし時、父親がラジオショップを経営していたという都合もあり、フェンダーやギブソンのピックアップを手に入れては分解、改造しながらその知識を深めていきます。EMGの前身となる「DIRTY WORKS STUDIO」を、出身地でもあるカリフォルニア州ロングビーチで立ち上げたときには、すでに電源供給を視野に入れたピックアップが開発されており、’79年には現行の「81」や「SA」の原型となるモデルも完成。その後「OVERLEND」と社名を変え、最終的に「EMG PICKUPS」に落ち着きました。

氏はアクティブ・ピックアップのヒントを、電源供給して作動させるコンデンサーマイクから得たと発言しており、ギターのピックアップにも同じように電源供給することでより対外ノイズに強く、高出力でクリーンなものにできるのではないか、という発想が大本として存在していたようです。ピックアップもマイクロフォンの一つであるという本質を突いたその発想力、現在のEMGピックアップの完成形にたどり着いたその技術力は素晴らしく、パッシブ・ピックアップ以外の第2の選択肢を市場に提供した役割は非常に大きいと言えるでしょう。


  1. EMGピックアップの特徴
  2. EMGピックアップのラインナップ


布袋寅泰 / HOTEI 「Highway Star」【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
世界のHOTEIこと布袋寅泰氏は、長らくEMGを愛用するアーティストの一人。モダンプレイヤーにとって、EMGは強力な味方となる。

EMGピックアップの特徴

EMGピックアップ最大の特徴は、内部にプリアンプが封入されている点です。このような機構を持つピックアップを「アクティブ・ピックアップ」と呼び、通常のものを「パッシブ・ピックアップ」と呼んで区別されます。

アクティブ・ピックアップの電気信号は、電池駆動の内蔵プリアンプによって通常の「ハイインピーダンス」から「ローインピーダンス」へと変換されます。インピーダンスについて追及するには電気的な理解が必要になりますが、ここでは「電源によって信号が強化される」という理解でだいたい大丈夫です。強化された信号は、回路やシールドを通過する際に外来ノイズの影響を受けにくく、また配線やシールド本体の持つ電気抵抗の影響を受けにくく音痩せしにくいので、ノイズの極端に少ない、また高域の響きが豊かなギターサウンドが得られます。
また、ボリュームノブの操作で音質が変化しにくいのも特徴です。パッシブではギターのボリュームを絞るぶんだけ高域が損なわれがちですが、アクティブではフルアップ時の音質のままで音量を操作できます。

アクティブ・ピックアップから発せられるローインピーダンスの信号には「ギターアンプを使わず、レコーダーに直接送ってもクリアな音が得られる」という特性もあります。スタジオワークでこの特性が注目されたこともあり、スタジオミュージシャンがこぞって利用しました。現在では、高出力ならではのハイゲインや、深く歪ませても音の芯が残るという特性を好んだ、ハードロックやヘヴィ・メタルを演奏するギタリストに使われる傾向が強くなっています。


Silas Fernandes performs “Heavy Droids” on EMGtv
スタジオミュージシャンやフュージョンのアーティストも多く愛用するEMGだが、現代では特にヘヴィミュージックとの相性の良さが注目されている。

「バー・マグネット&コイル」が基本構造

バー・マグネット&コイル
S/S/81のセット。磁石の保護のためもあってか、EMGピックアップはカバーに収められ、内部も樹脂で固められている。分解するには専門的な知恵が必要で、いちど分解したら復旧はできない。

EMGピックアップの基本的な構造は、棒状の長い磁石をコイルの中心に寝かせる形です。一見するとバー・ポールピースあるいはブレード型と表現されるタイプのピックアップに似てはいますが、磁石でバー・ポールピース本体を作るという設計は、他社になかなか例がありません。
またバー・ポールピースは、ピックアップの端から端までの範囲で均一に磁場を展開します。ネック幅やブリッジ仕様による弦間ピッチを気にせずに設置でき、大胆なチョーキングもしっかり拾います。磁力は控え目に設定されているので弦振動を邪魔しにくく、豊かなサスティンが得られます。

仕様にさまざまなバリエーションがある

EMGではひとつのモデルに対して磁石やプリアンプを変更したり、タップ機能を追加したりする仕様変更を施したバリエーションモデルを展開しています。こうした仕様が場合モデル名に表示されることが多い反面、歴史の長いモデルでは昔のままの名前が使われていることもあります。

磁石はセラミックとアルニコの2種類

EMGで使用される磁石はセラミックを基本とし、アルニコに変更したモデルにはその名に「A」が付けられます。その一方で、セラミックを使った「81」の磁石をアルニコに変更した「85」や、アルニコを使った「T」の磁石をセラミックに変更した「TC」の例もあり、磁石の表示法については統一されていません。

  • セラミック:全帯域をきれいに出力します。アルニコと比べると相対的に高域が伸びているように聞こえ、そのせいかレンジの広さをより感じさせます。倍音も豊かで、クリーントーンなどは粒の揃った明るい音色になります。
  • アルニコ:やや中低域よりにピークのあるサウンドです。高域部分は若干落ちますが、中低域にピークが来ているので、音の密度が濃いように感じ、歪ませた際にはウォームなサウンドが得られます(公式に「アルニコ」としか表示されない例もありますが、記述が無い場合のほとんどはアルニコVだと考えられます)。

2タイプのプリアンプ

EMG 89X
EMG「89X」
Xプリアンプ搭載機は、本体のロゴにも「X」が表示される。

EMGピックアップのサウンドバリエーションは一般的なピックアップと同様、コイルと磁石の組み合わせで作られます。内蔵されるプリアンプには、デビュー当時から連綿と受け継がれてきたスタンダードなプリアンプと、ヘッドルームを拡大してパッシブ並みのダイナミクスをもつ上位機種「Xプリアンプ」の2タイプがあります。このうちXプリアンプを採用したモデルには、その名に「X」が添えられます。
また、少数ではありますがプリアンプを持たないパッシブ・ピックアップもリリースされています。こちらはその仕様がモデル名に表示されないことも多いのですが、付属のボリュームポットに250kオームや500kオームといった高い抵抗値が採用されているところから判別できます。

「TW」はデュアルモード仕様機

EMG 81 / 81TW 「81(左)」と「81TW(右)」。並べてみると高さに違いが確認できる。

モデル名に「TW」が添えられるモデルは、通常のコイルタップのような感覚でシングルコイルとデュアルコイル(ハムバッカー)の二つのモードを切り替えることができます。ただし、シリアル/パラレルやフェイズなど特殊配線には対応しません。
なお、TW仕様機は設計上、本体の高さが増します。通常0.9インチ(約2.3センチ)のところ1.1インチ(約2.8センチ)になるので、取り付けの際にはピックアップキャビティの加工が必要になるかもしれません。

EMGピックアップの注意点

良いことずくめにも思えるEMGピックアップですが、アクティブ・ピックアップという設計上の特殊性からいくつかの注意点があります。これについて考えてみましょう。

プリアンプによる「コンプレッション感」が、メリットにもデメリットにもなりえる

EMG 89 / 89X 名機「85」と「SA」を切り替えられる「89(左)」と、そのXプリアンプ仕様機「89X(右)」。パッシブ・ピックアップの感触を大事にしている人には、Xシリーズがお勧め。

EMGのサウンドはプリアンプに由来する「コンプレッション感がある」と表現されます。これを好意的に解釈すると、音にまとまりがあり、エフェクターの乗りが良く、ドライブサウンドとの相性が良い、となります。その一方で、パッシブ・ピックアップほどにはピッキングニュアンスによる表現の幅が充分ではない、と感じるプレイヤーもいます。
EMGではこうした声に応え、適度なコンプレッション感のある従来のプリアンプのほかに、ヘッドルームを拡大してコンプレッション感を抑えた「Xプリアンプ」を開発、またパッシブと変わらないニュアンスを達成した「Retro Active」シリーズを新設、ピッキングニュアンスにこだわりたいギタリストがそのこだわりに妥協せず、ローインピーダンスの恩恵を受けられるようにしています。

他社製ピックアップとの併用はできない

ソルダーレス・システム 電気系を一新する必要上、単体で販売されるピックアップにも専用のポットやジャックなどが付属する。独自の「ソルダーレス・システム」により、アウトプットジャック以外はハンダ付けを必要としない。SSHやHHなどのセットで調達すれば、付属品が無駄にならずに済む。

EMGピックアップはローインピーダンス信号を送信するという電気的特性上、抵抗値25kオームのボリュームポットとトーンポットを使用します。パッシブ・ピックアップで使用するポットはハイインピーダンス信号を通過させるため、通常250kオームや500kオームといった抵抗値になります。EMGは、パッシブ・ピックアップとポットを共有できないわけです。例えば普通のストラトに「リアだけEMG」といった改造はできず、EMGピックアップを使おうとしたらフロントからリアまでEMGに統一した上で、電気系を一新する必要があるわけです。なおアンプやエフェクターについては、これまで通りの愛用品を問題なく使用できます。

電池残量に気を遣う必要がある


Frankie Lindia performs “Fusion Jam” on EMGtv
甘い音色でのリードプレイ。EMGは明瞭なサウンドキャラクターもあって「エフェクターの乗りが良い」と言われる。

EMGピックアップの起動スイッチには、ステレオのアウトプットジャックを使用します。ステレオジャックの構造を利用して、シールドを挿している間は電源が入るようになっているわけです。よって、シールドを挿しっぱなしでいると、弾いていなくても電池はどんどん消耗していきます。なお、EMGピックアップの電池寿命は標準モデルで1基あたり600時間、Xプリアンプ仕様機で3,000時間とされています。
EMGは電池の長持ちする優秀なピックアップですが、それでも電池が消耗してしまうとマトモな音は出なくなってしまいます。コイルにつながっているプリアンプは電源が落ちると抵抗として働き、ピックアップ本体の電磁誘導で生じた電気信号を著しく劣化させてしまうからです。アクティブ・ピックアップのユーザーには、常に予備の電池を携行し、本番前には電池残量の確認をする習慣が必要です。

EMGピックアップのラインナップ

EMG 定番機種ではオプションとして豊かなカラーバリエーションが用意されている。

では、EMGのラインナップをチェックしていきましょう。日本国内ではブラックを定番としてカラーバリエーションは絞られている印象ですが、本国ではオプションでさまざまなカラーがあります。また、さまざまな仕様や設計のバリエーションがある一方でほとんどのモデルが外観だけではなかなか判別できない、高いステルス性が面白いところです。なお、全てのEMGピックアップにコントロールノブやアウトプットジャックなどの電装系が付属します。

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